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近づきながら、何となくほの紅くなつて、中声で叫んだ。そして、房一の傍にいる小谷と徳次を認め、小腰をかゞめた。括くゝられてふくらんだ袖口からは気持のいゝ白い腕が露はれていた。
「さやうさ。当今では大分世智辛せちがらくなりましてな。薬価の代りに畑の物を貰つてすませる位のことはさう珍しくはありませんよ」
「さうですか」
この時、練吉が又小耳にはさんで訊き返した。が、明かにそれはさつきの小耳訊きとは様子がちがつていた。殆ど一人で盃を傾けていたせいもあるが、つい今まで沈んでいた練吉は僅かの間に一足とびに深い酔の中に入りこんでいた。
「徳さん。追鮎は君のといつしよに活かしといてもらはうか――どつこいしよ」
練吉はさつきから一人で喋つていた。
徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。
だが、やつぱり戻らないで、しきりとこつちを見ながら行く。
「ウシ!ウシ!」
「おい、早く早く」
「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」
と、今やうやく気づいた盛子が叫び声をあげた。
そこで自分がどんな取扱ひをうけるか、あたり前の医者としてか、それとも単に「芋の子」に過ぎなかつた高間道平の憎まれ息子としてか、房一は少からず興味を持つた。が、大体予測がつかないではなかつた。きつと、医者として認めたがらない気持がそのまゝ現れるだらう、と。